STORY
DESIGNERVol.02 アンジェロ・マンジャロッティと『Giogali』
みなさんは、アンジェロ・マンジャロッティ(Angelo Mangiarotti 1921−2012)をご存知ですか。イタリア・ミラノ出身のマンジャロッティは、91歳の人生に幕を閉じる直前まで、『建築』『インダストリアル・デザイン』そして晩年には『彫刻』と幅広いセクションでの創作活動を繰り広げ、イタリアモダンデザイン界を常にリードしてきたマエストロ・巨匠のひとりです。レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロのように、あらゆる分野において万能なイタリアン・アーキテクトの資質を受け継いだマンジャロッティは、常々「何をつくるにしても重要なことは、素材を知ること。そして、それを加工するための技術を知ること」と言及し、モノづくりの原点としました。素材のもたらす可能性を最大限に引き上げながら、質と美を兼ね備え、流行に翻弄されずいつの時代にも人々を魅了してきたのがマンジャロッティの作品の特徴です。
マンジャロッティの制作活動を象徴する作品は多数ありますが、LUMINABELLAが取り扱っている彼の代表作『Giogali(ジョガーリ)』シリーズについてご紹介します。
マンジャロッティは、1960年にそれまで一緒に事務所運営をしてきたブルーノ・モラスッティと分かれ単独で事務所を開設し、精力的な制作活動を展開し始めます。デザイン業務の傍ら、1963年から64年にかけてヴェネチア建築大学の工業デザイン専門コースにて教鞭を執り、この時期頻繁にヴェネチアに通う日々が続きました。ヴェネチアの工業製品といえばムラーノガラス。もともと、地域の素材や伝統技術に多大な関心と敬意を持っていたマンジャロッティを虜にしたのは、歴史あるムラーノガラスの工法でした。
マンジャロッティはそれ以前も以後も世界中の多くの大学や教育機関で教鞭を執りましたが、彼のレクチャーの特徴の基本は、1953年の最初の教員経験であったアメリカ・シカゴのイリノイ工科大学にて育まれました。教室内でのレクチャーではなく、地域産業を繁栄させている工場や工房を訪れ、職人さんや技術者の方々から素材や製造工程・製品そのものの成り立ちを見せてもらい、そこから何ができるのかを探求する、という姿勢を学生に伝えるというスタイルです。ヴェネチアでも同様、数々のムラーノガラスの工房を訪れ、ガラスという素材の特質、製作の仕方や取り扱い方など、ガラスの持つあらゆる情報を職人さんたちからヒアリングしました。
そして1967年、マンジャロッティがムラーノガラスのVistosi社と手がけて誕生させたのが、照明のオーナメント・パーツ『Giogali』です。
当時、Vistosiのガラス職人さんはマンジャロッティの最初のスケッチと図面を見てとてもびっくりしたそうです。「ガラスをこんな風に使うなんて、誰も考えもしなかった。」と。
Giogaliのガラスオーナメントを見上げるマンジャロッティ
ガラスと言えば、『透明』『光を通す』『硬い』『割れる・壊れる』などのイメージが常に付き纏いますが、マンジャロッティの作り出したGiogaliは、ガラスのポジティブなイメージ『透明』『光を通す』を最大限に生かし、ネガティブな『硬い』をオーナメントで構成することにより『柔らかい』素材に変換。また同じくネガティブな『割れる・壊れる』イメージを逆手に取って『繊細・たおやか』なイメージに移り替えた様相です。まさに、ガラスの特徴やその強度を知り尽くしたマンジャロッティならではのデザインですね。
マンジャロッティはこう述べています。
「Giogaliはガラスだから成立しているんだ。一般的にガラスは割れやすいと思われているけれど、その強度は非常に高いものだ。人々はガラスのGiogaliを見て、その繊細さや洗練された美しさを感じることができる。もしGiogaliがプラスチックやシリコンなどの壊れない素材で作られたなら、この美的感覚を見出すことはできない。」
マンジャロッティの作品に対する思い入れをいつの時代にも支えてきたのは、建築作品なら施工者の方々、インダストリアル・デザインや彫刻作品なら製造者や職人さんたちでした。マンジャロッティの GiogaliとVistosi社との繋がりも非常に強く、1967年のGiogali誕生よりアンジェロ・マンジャロッティの逝去後の現在にまで、途切れることなく続いています。マンジャロッティの思い描いた、輝きに満ち洗練されたGiogaliを実現するために、ガラスの強度を上げながらもその透明さを如何に維持していくか、輝きを増すためにはどのような成分のガラスを作るか、試行錯誤を繰り返し、年々改良を続けています。また、スタンダードなGiogaliに加えてガラスサイズの小さいMini Giogaliや、透明さを保持したシックなカラーガラスのGiogaliなど、シリーズのラインナップもとても豊富なものとなっています。
生誕50年 -人々を魅了し続けるGiogali-
2017年の今年は、Giogali生誕50年になります。無限の可能性を秘めた小さなガラスのパーツGiogaliは、そのデザイン性や製造歴史が認められ、ヴェネチア、ムラーノ島にあるムラーノガラス美術館(Museo del Vetro di Murano)の常設展示品として今年より展示されるようになりました。通常、一品生産ものの作品で占められるこの美術館に、インダストリアル・デザインの作品であるGiogaliが展示されるのは極めて稀なケースです。マンジャロッティの時間を感じさせない秀逸なデザインとVistosi社の真摯な製作フィロソフィーの協働よりもたらされた快挙とも言えます。最後に、このGiogaliのもう一つの魅力を挙げましょう。建築作品でもインダストリアル・デザイン作品でも、マンジャロッティは《最終的にユーザーが好ましい形態に作り上げられるようなもの》を数多く提案しました。建築なら、窓や外壁やバルコニーをユーザーがその都度選定できる建築工法、インダストリアル・デザインなら、数十種の天板を持ち交換可能なテーブルのシリーズや様々なパーツで組み立てが自由な家具のシリーズなど、実際にそれらを使う人がその時々の状況や好みに応じて何を使うかを選べるようなデザインにしているものが沢山あります。このGiogaliもそのひとつ。パーツを繋げる長さや位置、カラーコンビネーションなど、使う人、使う状況、その場の雰囲気に応じた相応しい展開が可能なのが大きな特徴です。
現在に至るまで50年間に渡り、世界中のデザイナーやユーザーを魅せてきた小さなガラスのパーツGiogali。光を通して煌びやかにそしてたおやかに輝くその美しさは、今後も人々を魅了し続けていくことでしょう。
(左)Giogali SP 50
(中)Mini Giogali SP CLA
(右)Mini Giogali LT
(執筆:堀川絹江 / 画像提供:ヴィストージ・アーカイブ)
堀川絹江(Kinue Horikawa)
GKデザイングループ株式会社GK設計勤務後、1995年よりイタリア、ミラノのマンジャロッティ事務所に勤務。イタリアンデザイン界の巨匠アンジェロ・マンジャロッティの制作活動を、20年以上に渡りコラボレーションする。Vistosi社とも親交が深く、同社の日本向けプロモーション事業を務めている。
『50th Giogali Story』
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